4:静粛性の追求
4-1 純正仕様での確認

estremoオイルで潤滑性能が向上するとメカニカルノイズという言葉自体が死語になる。するとユーザーの皆様が言ってくることは「ロードノイズが耳につく」「排気音がうるさく感じる」「風切り音がうるさい」といった具合で一致する。こんなことを書いても弊社のエンジンオイルを使用していない人には、なかなか理解して貰えないかもしれない。人間の五感は、音で危険予知している割合が大きく、エンジン音の大小や回転音により「スピードが出ている」と速度計を見ていなくても本能的に把握している。これが静かになればなるほどに、スピード感は麻痺してゆく。こんな現象は20年前にスーパーアタックX1(現・estremo X1)を発売した頃から起きていたこと。それがハイブリッドになると、同じような現象に見舞われる。ホンダインサイトはエンジンが主体でモーターは補助的役割であるが、新型プリウスはモーターが主役でエンジンはサポート役の制御なので、エンジン自体の負荷低減により、従来のエンジン車では普通に出ていた音が出にくい傾向を示すので、本来であれば許された音(実際はエンジン音で掻き消されて気にならなかった音)でも、気になってくることとなる。そこは充分な対策が施されている。仔細に観察するとエンジンルームと室内との隔離部分は両側に遮音材が貼られている。ボンネット裏側にも遮音材が貼ってある(L仕様は除く)メーカーもコストとの兼ね合いがあるので、必要最低限の部分に対策を施していることが見てとれる。3代目プリウスだから、しっかりと改良されていると考えられるが、音を気にし始めると気になってしまうのも仕方がないこと。回生ブレーキの音、エアコン作動時のモーター音、その他、ハイブリッドシステムならではの独特の音が聞こえてくる。そのレベルは時には小さく、時に大きく変化する。また、連続する下り坂でシフトをBポジションで下ってゆくと充電必要時は回生ブレーキが作動してエンジンブレーキの様な減速をする。この時にはエンジンは回転しているが燃料噴射は行われていない。やがてバッテリーはフル充電され回生ブレーキの必要性がなくなると、従来の車と同様に燃料噴射が行われエンジンブレーキが強く働くようになる。すると、それまで静かだった室内は豹変して、ビックリするような騒音が襲ってきた。「ああ、純正(工場出荷時の状態)の0W-20低粘度オイルでは、油膜が薄くて保護しきれていないな」と私はすぐに直感した。取扱書に目を通すと、指定オイルは下記に示す5種類が記載されている。

●トヨタ純正モーターオイル SM 0W-20 
●トヨタ純正モーターオイル SM 5W-30
●トヨタ純正モーターオイル SM 10W-30
●トヨタ純正モーターオイル SL 5W-20
●トヨタ純正モーターオイル SL 10W-30

「※0W-20は新車時に充填されている、最も省燃費に優れるオイルです。」
と、書かれているが新品時は優れていても、ある期間にわたり使い続ける訳だから、劣化具合を考慮しなければなるまい。私がエンジンオイルの性能を追求して得たノウハウは、オイル粘度が固くなるほど油膜の厚さも増すことになり保護性能も優れてくる。従って、「メカニカルノイズが大きいほど耐久性に影響を及ぼす」ということだ。長期間にわたり愛車の状態を最適に維持することが燃費にとっても走りにとっても重要なことなので、目先だけの燃費だけを考慮するのは片手落ちと思ってしまう。天麩羅オイルではないけれど、低粘度オイルは油温上昇によってすぐにサラサラに変化してしまうのだから。

 取扱書には、■エンジンオイル推奨粘度が記載されていて、SEA 10W-30を見てみると適合温度領域は-20℃〜40℃以上となっている。更に、「Wの前の数値が小さいほど冬場や寒冷地のエンジン始動が容易になります。」と記載されている。日本では北海道の一部が-20度を下回ることがあるが、地球温暖化の影響で年々最低気温は上昇していると聞くので、低温度側が10Wであってもエンジン始動が困難になる状況など、バッテリーさえ弱っていなければ発生しない。更に、「●粘度の高いオイルは、高速または重負荷走行に適しています。」と書かれているのだが、多くの方が「低粘度オイル=燃費に優れている」と常識としてインプットされてもおかしくない。でも、オイルは少なくとも1年間1万km使い続ける。プリウスの推奨オイル交換はボンネット裏に貼ってある「エンジンサービス情報」ラベルに以下のように記載されている。
エンジンオイル交換=15000kmまたは12ヶ月
オイルエレメント交換=15000km
ちなみにアイドリング回転数=1000rpm

「ハイブリッドエンジンは頻繁に始動・停止を繰り返すので使用条件が厳しい」と見る人もいれば、私のように逆に「エンジンが過酷になる発進加速や登坂時ではモーターアシストが入るので厳しくない」という意見の人と分かれてしまう。この辺は、どこまで車の構造作用に精通しているかで見方が分かれてしまう所だから、両方の意見を聞いてしまうと無知な人ほど、どちらが正しいのか迷うことになる。「条件的に厳しくない」という見方の証拠を挙げると、厳しい車の場合の推奨交換時期は5000kmまたは6ヶ月が一般的である。また、アルファード・ハイブリッドで、燃費運転指向の方が弊社の「エコノミア極」を3年間3万km使用されたが、オイルの汚れ・劣化は一般車の7000〜1万km使用時と同等であった。どんな理論や推測よりも実際走行での結果に勝るものはありえない。
 アクセルを強く踏まないでスタートすればエンジンは始動しないでモーターのみでスルスルと発進するが(諸条件によりエンジン始動するケースも出てくるが)、アクセルペダルを強く踏み込んだ場合は、すぐにエンジンは始動する。普通の車と異なる点は、エンジンのみが100%働くことはなく、モーターが主体であり、アシストとしてエンジンが稼動する。このよく出来ている制御の謎を知りたかった。気をつけていないと、いつエンジンが始動したのか気がつかないほどスムーズ。いつエンジンが稼動したかは、メーター表示を切り替えエネルギーモニター画面にするとハイブリッドシステムの作動状態が解る。エンジン稼動に伴い、オレンジ色の矢印がバッテリー側に流れる表示で把握できる。通常の走行でアクセルをあまり踏まない状況ではエンジンは停止しているので、聞こえてくる音はロードノイズが一番気になってくる。と、言っても静かな車だからこそ余計に感じてしまうレベルである。普通の車であればエンジン音が勝っている場合が多いのでロードノイズが同等としても、さほど気にならない。また、エンジンが始動した際も、モーターの補助役なので回転数は低く、0W-20 の純正低粘度オイルでも静かさは保たれる。唯一の不満である長い下り坂でのエンジン音は5W-30または10W-30に交換することや、X1添加、弊社エンジンオイル使用などで、改善できると予測している。
 新型プリウスの、モータとエンジンの制御を文章で解説すると・・・。
フロントエンジン・リヤドライブのデファレンシャルギヤに相当する部分を電気式無段変速機と置き換えると解り易い。出力軸をプロペラシャフトと考え、後輪の片側にモーターを取り付け、片側にエンジンを取り付けたとして想像してみてください。片側のエンジン停止中はモーター出力のみでプロペラシャフトは回転します。モーターが70%分だけ働いている状況では、エンジンが稼動し30%だけ働けば良い訳です。エンジンには普通の車と同様に乾式クラッチが設けられているので必要により断続を行っていると推定できますが、詳しい制御の分析はこれからです。エンジンで補器類を駆動するベルトは一切無くしたために騒音発生源のベルト類は一本もありません。代わってエアコンはモーター駆動となり回生ブレーキ制御もモーターが作動するためブレーキを踏んでスピードが落ちてくると「ギュゥゥ〜ン」と聞き慣れない音が聞こえてきます。取扱書に記載された発生する音と振動について、以下のように記載されています。

●エンジンルームからの電気モーター音
●ハイブリッドシステム始動時や停止時に聞こえる、車両後方および駆動用電池からの音
●バックドアを開けたときに聞こえる作動音
●エンジン始動・停止時や低速走行時、およびアイドリング中にトランスミッション付近から聞こえる、「コツコツ」「カタカタ」という音
●急加速時のエンジン音
●ブレーキペダルを踏んだときや、アクセルペダルをゆるめたときに聞こえる回生ブレーキの音
●ブレーキペダルを操作したときに聞こえる、作動音やモーター音
●ガソリンエンジンの始動・停止による振動
●リヤシート横(運転席側)にある吸気口から聞こえるファンの音
●エアコンの作動音(エアコンコンプレッサー・ブロアモーター)

色々な音を発する機構があることが理解できる。逆に言えば静かさゆえに浮かび上がってくる音であり理屈が理解できてしまえば、それほど気になる音でもない。従来車に慣れた人から見て、初めて体験する音だから最初の内は気になる程度。この辺りの静かだ、うるさいという評価はプリウス以前に、どんな車種を乗ってきたかで分かれるだろう。軽四輪から乗り換えた人は静かだと評価し、高級大型セダンから乗り換えた人は、うるさいと評価してもおかしくない。私の総合評価としては及第点であり、よく出来た車である。良くできている車だから、舗装の継ぎ目の盛り上がった部分を乗り越える状況(高速道路の継ぎ目等)では、ドシン!と、強いショックと共に音が出るのが不満なので対策してゆきたい。